インタビュー

「ゆう」に通所する 小山奈々さん

笑って、泣いて、また笑って。
みんなと一緒。いつもの暮らし。

元を離れ、ケアホーム『はなえみ』で4人の仲間と共に暮らす、小山奈々さん。
乳児の頃に患った病気により、自分で動くことも、話すことも、
口から食事を摂ることもできなくなってしまった、
いわゆる「重症心身障害者」と呼ばれる女性です。
ここでご紹介するのは、奈々さんの、ごくごく普通の日常生活の様子。
そのありのままの姿から、
彼女の中にある心の起伏や時の流れを感じ取ってみてください。
小山奈々さん
小山奈々さん
養護学校卒業後、みなと舎の立ち上げから法人ともに歩んできたメンバーさんです。日中は『ゆう』で活動を楽しみながら、スタッフと4人の『はなえみ』同居メンバーさん達と、笑顔溢れる毎日を過ごしています。
奈々さんの一日は、『はなえみ』で暮らす誰よりも早く始まります。朝6時、かわいらしい手作りの小物や家族の写真に囲まれた部屋で、今日も一番に目を覚ましました。その様子にいち早く気づいたのは、宿泊スタッフの天川さん。「奈々さん、おはようございます」と、にこやかな笑顔で部屋に入ってきました。奈々さんは、まだ少し眠そうな表情。天川さんは、奈々さんのペースにあわせてゆっくりと着替えを済ませると、今度は朝食のため、奈々さんを車いすに乗せてリビングへ。奈々さんの食事は、口から摂ることが難しいため、チューブを介して胃に直接流動食を流し込む経管栄養です。ゆっくりゆっくり、約1時間かけて、朝食を済ませました。
自慢の白い歯を磨いたら、少しベッドで休憩をとり、今度はお出かけの準備です。ダウンコート、ニット帽、ミトンと、万全の防寒スタイルで外出用の車椅子に乗り込み、準備はOK。澄み切った真冬の青空の下、天川さんと一緒に『はなえみ』を後にしました。
飯干朝菜さん

「一対一」という安心感と共に。

住宅街を抜け、冬野菜が実る畑を横目に10分ほど行くと、『ゆう』に到着です。「おはようございます!今日も寒いですね」。いつも元気なスタッフのみなさんに迎えられ、奈々さんの表情も一気に明るくなりました。『ゆう』では、メンバーさん一人に対して一人のスタッフが付く、一対一の支援を行っています。この日の奈々さんの担当は、支援スタッフの上村さんです。上村さんと奈々さんは4年のお付き合いになる、気心知れた仲。笑顔を交わしながら、奈々さんが所属する「ひかり」の部屋へと向かいました。
たんの吸引をしている様子
朝9時、部屋に到着すると、続々と仲間たちもやってきました。にぎやかな朝の部屋の中で、上村さんはいつも通り、体温と血中酸素濃度のチェックを済ませ、水分補給を行います。「今日は何かあったのかしら、ニコニコしてご機嫌ですね」。『ゆう』に到着してからなんだかうれしそうな奈々さんの様子につられるように、上村さんも一緒に笑顔に。たんが絡みやすい奈々さんのため、時々吸入を行いながら、すぐそばに、呼吸を合わせるように寄り添っています。

大好きな外出は、看護師さんも一緒に。

この日は天気も良いので、仲間と一緒にお散歩に出かけることに。奈々さんのように、医療的ケアの必要な方が外出するときは、必ず看護師の資格を持っている看護スタッフも同行するのが、『ゆう』のルール。吸引器を手にした看護スタッフの宮崎さんも一緒に、近所の広場へ向かいました。外の風に当たることが好きな奈々さんは、一面黄色く染まった菜の花畑を眺めて、とても気持ち良さそう。スタッフのみなさんの明るい笑い声に、心も表情も、一層明るくなった様子です。
外出する様子
「ゆう」に戻ると、今度は昼食の時間です。食事のときは、たんが絡んだり、戻したりしないよう、上村さんは特に注意深く奈々さんを見守っています。上村さんがこの場を離れるときも、他のスタッフが必ず交代で寄り添ってくれます。スタッフのみなさんは、いつもこうやってチームプレイを見せてくれるので、奈々さんも安心して過ごすことができます。

突然の発作も、みんながいれば大丈夫。

食事中、ドアが「バタン」と閉まった音を聞いて、奈々さんはびっくり。身体も表情も一瞬、硬直してしまいました。すると「ゴメンねー、奈々さん」と看護スタッフの小島さんがすぐに駆けつけてくれました。奈々さんは音にとても敏感で、ドアの開け閉めや誰かのくしゃみなど、少し大きめの音がすると軽い発作を起こしてしまうことがあるのです。このことを良く知っているスタッフのみなさんは、日頃から気をつけて行動していますが、どうしても音を立ててしまうことも。そんなとき、すぐに駆けつけてくれる人がいることは、奈々さんにとって大きな心の支えになっています。この日も、小島さんの顔を見た奈々さんは、次第に笑顔に戻り、発作も短い時間で落ち着きました。

午後になると、今度は奈々さんに大役が任されました。来週『ゆう』で行われる「成人を祝う会」のクイズの準備のため、みんなを代表して、成人を迎える方にインタビューをしに行くのです。看護スタッフの小島さんに連れられて別の部屋へ移動し、堂々と大役をこなした奈々さん。スタッフと、他のメンバーのみなさんにも褒められ、ご満悦の様子です。

やっぱり一番落ち着くのは、マイルーム。

午後3時、にぎやかな『ゆう』での時間はあっという間に過ぎ、『はなえみ』へ戻る時間となりました。少し傾いた太陽が照りつける中、仲間3人と一緒に帰路につきます。到着した奈々さんたちを出迎えてくれたのは、遅番の支援スタッフと、今夜の宿泊スタッフ、合計4名のみなさん。ケアホームでも、メンバーさんと同じ人数のスタッフが勤務し、一対一の支援で一人ひとりの暮らしを支えているのです。
奈々さんは、宿泊スタッフの横上さんに連れられ、自分の部屋へ。やはりこの部屋が一番落ち着くのでしょう。ベッドに横になったとき、今日一番の穏やかな表情を見せてくれました。おやつには野菜ジュースを摂り、お風呂にも入り、リラックスした雰囲気の中、夕方の時間は過ぎていきました。
お部屋でリラックス

笑顔の理由は、にぎやかな仲間たち。

6時半になると、楽しい夕食の時間です。一緒に暮らす4人全員でリビングに集まり、賑やかに食事を摂ります。今日のメニューは小松菜の白和え、キュウリ、卵、トマトの入ったマッシュポテト、キャベツの肉巻きトマトソース。スタッフの方が趣向を凝らしたオリジナルメニューは、味はもちろん、目にも鮮やかなもの。みんな美味しそうに口に運んでいきます。奈々さんはこの食事を摂ることはできませんが、みんなと一緒の空間で時間を共にしていることを楽しんでいる様子。ニコニコしながら、賑やかなみんなの様子を眺めていました。

食事が終わると、一日の疲れが出たのでしょうか。奈々さんの目は、少しとろーんとしてきました。続いて、大きなアクビも。横上さんはその様子を見て、食後の歯磨きを手早く済ませ、早めにベッドに連れて行ってくれました。夜更かしが好きな仲間たちより少し早く、眠りに就く奈々さん。こうして、たくさんの人と笑顔に囲まれた奈々さんの1日は、今日も穏やかに終わりを告げ、また明日へと続いていくのです。
笑顔の奈々さんとスタッフ

(2013年取材)

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